ミレニアム・プロミス・ジャパン(MPJ)

極度の貧困は根絶できるはずだ
私たちの孫の時代ではなく、
私たちの世代のうちに
極度の貧困は根絶できるはずだ  私たちの孫の時代ではなく、私たちの世代のうちに

第7回研究会報告

DSC03883.JPGコロンビア大学地球研究所のジェシカ・ファンゾ博士をお迎えして10月14日に開催された第7回研究会のレポートを掲載します。講演のテーマは、「ミレニアム・ビレッジ・プロジェクトにおける栄養学と食糧安全保障」でした。
ファンゾ博士によると、現在飢餓で苦しんでいる人々は、世界で10億人以上います。最近の世界同時不況と食糧価格の高騰により、この数字は過去の8億5000万人から増加したものです。飢えで苦しむ人の3割は子供です。そのほとんどがアフリカに住んでいるため、飢餓という観点からはアフリカは最も大きな問題を抱えた地域です。DSC03881.JPG

【写真:ジェシカ・ファンゾ博士】
ミレニアム・ビレッジ・プロジェクトがモデルとして選んでいるサハラ砂漠以南の村々は、中でも飢餓の多発地帯で、1年のかなりの期間、食べるものがない、あっても不十分であるという地域です。
現在、ケニアのDertuは、干ばつによる飢饉に苦しんでいます。これに関する報告書も掲載しましたので、ご一読ください。
レポートの内容は「続き」をお読みください。

“ミレニアム・ビレッジ・プロジェクトにおける栄養学と食糧安全保障”
―ミレニアム開発目標達成に向けて―

【講師】      ジェシカ ファンゾ博士
【日時・場所】  2009年10月14日(水) 18:30~20:00
スタジアムプレイス青山10階会議室「1009」
【概要】      1.ミレニアム・ビレッジの概要
2.栄養失調について
3.栄養の観点からのミレニアム・ビレッジにおける活動
4.事例研究-サウリ村(ケニア)
5.結論
・質疑応答
1.ミレニアム・ビレッジの概要
■ ミレニアム開発目標とミレニアム・ビレッジ・プロジェクト
ミレニアム開発目標とは、国連が設定したもので、各国政府に対する支援を通して貧困を終わらせようという、非常に高尚な目標である。具体的には八つの目標が掲げられている。
その目標の一つに「極度の貧困と飢餓の撲滅」とあるが、これは栄養に対して取り組むということであると思う。つまり、栄養失調に苦しむ子どもたちの数を減らそうということであり、まさに私が目標として掲げていることである。
このミレニアム開発目標のもと、ミレニアム・ビレッジ・プロジェクトは、概念実施のものとして打ち立てられた。貧困に苦しむ村々がどのようにしたらミレニアム開発目標を達成できるのか、そのPOC(概念の実証)を確立するために、サックス教授と、エコノミストで土壌科学者でもあるペドロ・サンチェス氏によって、このプロジェクトは設立された。設立年は2004年である。なお、サックス教授は2週間後に日本に来られるので、ご興味があれば是非会っていただきたい。このプロジェクトは、貧しく飢餓に苦しむ村々が、どのようにしたらミレニアム開発目標の達成に向けて軌道に乗っていけるか、そのアイデアを明確に打ち出していくものであるといってもよいと思う。
■ ミレニアム・ビレッジ・プロジェクトの特徴
ミレニアム・ビレッジ・プロジェクトの活動は、サハラ以南のアフリカ諸国を対象としており、14地域80村落で行われている。活動の分野としては農業や健康、医療、教育、栄養等があり、その他にも、より良い道路を敷設することや、より良い水を提供すること等、様々な取り組みも行っている。そして、これらをすべて統合した形で同時並行的に実施していく点が、このプロジェクトが他の通常のプロジェクトと大きく違う点である。というのも、通常のプロジェクトは、HIVやマラリア等の一つの分野に非常に特化した形で行われているからである。それとは違い、統合型で、同時並行的に様々な活動を網羅しているのがこのプロジェクトの特徴である。
私共がプロジェクトに選んだ地域は、飢餓の多発地域、つまり一年のかなりの間、食べるものがない、あるいはあっても不十分であるような、飢餓に苦しめられている地域である。
ミレニアム・ビレッジは様々な地域に跨っていることから、村ごとに異なる課題や試練があり、ビレッジ同士を単純比較することはできない。殊に栄養や食糧について考える際には、その違いを意識することが極めて重要になってくる。たとえば、日本のように海岸や河川の近くに位置するところもあれば、ケニア北部のように牧草地帯が広がりラクダなどを連れて遊牧する人たちが住むところもあり、トウモロコシ等を栽培している農業が盛んなところもある。
私共が活動している地域は非常に飢餓に苦しんでいるところで、GNPベースでみると300ドルに満たない貧困地域になる。しかし、政府の状況が比較的良く、統治がしっかりしているところに限られているので、たとえばソマリアやジンバブエといったような政情不安のところは含まれていない。更には政府レベルでミレニアム開発目標を達成するという公約が示されているところであり、私共に協力してくれるところに限って活動を展開している。
■ 貧困から脱するためのコスト
このプロジェクトは、著名な経済学者であるサックス教授が立ち上げているものであるため、どのような形で人々を助け貧困から脱却してもらうのか、あるいはどうやったら貧困から脱却する軌道に乗ってもらえるのかということについて、かなりのモデリングがなされている。その結果、コストについては、一人当たり一年110ドルいう数字が出たが、この金額が議論の的となっており、先日もタイのミーティングにおいてかなりの議論がなされた。なお、110ドルのうち50ドルは私共のプロジェクトから拠出されている。次の20ドルは私共とパートナーを組んでいる組織、たとえばWFPやその他のNGOから出ている。次の30ドルは政府から出ており、そして最後の10ドルは村の人たち自身から拠出されている。コスト自体が非常に統合された形で構成されているというのがおわかりいただけると思う。
なお、プロジェクトで拠出している50ドルは、開発に関するあらゆる分野を網羅できるようになっており、この拠出により全てのコストが担保されるようになっている。分野としては、人的なことに関わるため、医療・健康関連がやはり一番高くなっている。
■ プロジェクトの形式
コロンビア大学の地球研究所はサックス教授とサンチェス教授が共同でディレクターとして立ち上げたものであり、私はこの研究所に所属している。プロジェクトでは、私共が、技術的なアドバイス等を、村の活動に携わっているチームの方々に提供するという形になっている。チームは、その国の人を巻き込んだものになっているので、たとえばケニアチームであればケニアの人も取り込んだものとなっている。そして、そのチームに対して、私共の方から指針や支援等を提供している。運営、資金、物資の調達等はUNDPとミレニアム・プロミスの方で行うという形になっているので、様々な方々が色々な形で関わっており、おそらく1000人以上は関わっているのではないかと思う。
■ 村々の活動の様子
・Dertu(ケニア北東部)
Dertuは、今、一触即発の状態にあるソマリアの国境近くの村である。現在、非常な干ばつに苦しんでいる。ここに住む人々は遊牧民であり、牧草地に住んでいるため、地面に何かを植えて育てるということは一切しない。自分たちが飼っているラクダのミルクを飲んだり、肉を食べたりということしかしないので、干ばつと言う事態が起こると非常に厳しい状態にさらされてしまう。一旦家畜が死んでしまうともう何も食べるものがない。頼れるのは私共が提供するような食糧援助だけということになるから非常に危ない状態にある。
・Potou(セネガル)
Potouは海に近い所に位置しているが、栄養失調の問題が厳しく、特に子どもたちにおいてその問題が顕著である。ムスリム教徒が住んでいることから、一夫多妻制となっており、そこから引き起こされるジェンダーの問題あるいはエンパワーメントの問題もある。そしてこうした問題があることから、母体の健康にとっても大きな影響が出ている地域である。
・Timbuktu(マリ共和国)
マリ共和国の北部に位置するこの村は、極めて人里離れた隔絶された村となっているので、アメリカやイギリスの人たちの中には、伝説の土地だと思っている人もいるほどである。ここに住む人たちは遊牧民なので、厳しい天候にさらされながら暮らしている。気温は極めて高く、40度から45度になることもある。日本人と同様にTimbuktuの人たちも米を主食としている。ニジェール川が氾濫するとそれを利用して稲作をし、育て、食べるのである。日本と違うのは、この人たちは米しか食べられないという点である。日本人だと米以外に魚や様々なものを食べるがこの人たちが食べられるのは米しかないのである。
・Gumulira、Mwandama(マラウイ)
マラウイは、アフリカ南部に位置する国である。非常に沢山のトウモロコシ等が採れる地域ではあるのだが、HIVの感染率が高い。また、マラリアの罹患率も高いということから、乳幼児の死亡率や母体の死亡率も極めて高くなってしまっている。
・エチオピア北部
エチオピア北部も天候の厳しいところである。ここではインジェラという非常に平べったいパンを主食としているが、それ以外に食べるものがない。非常に食生活のバラエティが少ないというのが、私共が活動を展開している村の特徴の一つである。基本的な穀物しか採れないので、たとえば、トウモロコシ、米、小麦等しか食べるものが無く、他にはほとんどバラエティが無いのである。
2.栄養失調について
■ 世界における栄養失調の問題
アメリカにはかなり肥満の方がいるが、かたやアフリカ・インドを含め世界の大半は実はまだ栄養失調に苦しんでいる。ちなみに日本は全くこのような栄養失調の問題はない。
現在飢餓に苦しんでいる人たちは世界で10億人いると言われている。この数は、以前は8億5000万人だったのだが、折からの世界同時不況と食糧価格の危機によって今は逆に増えてしまった。これほどの人数が世界中で飢えに苦しんでいるという状況はかつてあったことがない。よって、飢えという観点からみると、私たちは進歩しているどころか後退しているという残念な状況である。
そして、世界的に飢えに苦しむ10億の人たちの中には、3億の子どもたちが含まれている。この子どもたちのほとんどがアフリカに住んでいるため、殊に栄養失調の問題に取り組むということになると、アフリカが一番大きな問題を抱えた大陸なのである。健康、そして栄養失調に取り組む際には、最も支援を必要としているのがこのアフリカ大陸であるということが言える。
■ 微量栄養素の欠乏
栄養失調の中で一番大きい問題であるのが、微量栄養素と呼ばれるミネラル類、ビタミン類の欠乏であり、具体的には、ビタミンA、鉄、葉酸、ヨウ素の4つが挙げられる。世界的にもかなりの人がこの4つの栄養素について欠乏した状態になっている。たとえば鉄は、世界人口の3分の1である20億もの人が欠乏に苦しんでおり、ビタミンAについては子どもだけで5億人が欠乏しているという状態である。この数字がいかに大きな数字かというのはすぐにおわかりいただけると思う。中でもこの低栄養に苦しんでいるのは子どもたちや母親たちということになり、今必要な摂るべき栄養素が摂れていない状態にある。これにより健康上を含め種々の問題が出ているが、これが、明日、あるいはもっと長期的な将来に影響を与えるのは一目瞭然だと言える。
■ 介入の方法
私共の介入の方法については、サプリメントあるいは栄養強化が中心となっている。つまり、健康、医療に関する介入を主に行っており、錠剤と粉を使用している。つまり、食糧ベースのアプローチではない。私共は、一般に世界中でとられているアプローチとは違う形の介入を行っていることになる。
というのも、現在一般的に取られているアプローチは、「薬剤化された」アプローチとなっており、これが逆に問題を引き起こしているのである。薬剤化したアプローチをとってしまうと一体食べ物とは何なのかという一番大きなコンセプトを見失うことになってしまうからだ。よって、私共ではこの薬剤化されたアプローチを問題視して対応している。
私共は、単に健康、医療だけに特化したアプローチではなく、それを超えていかなければ栄養に関する問題は対処できないのだということを主眼に活動を展開している。栄養というのは、伝統や文化等の様々な要因が絡む複雑な問題であることから、単に健康や医療だけに特化しても、全ての栄養に絡む問題を解決することはできないからだ。私共ではこのような複雑な栄養と言う問題に対処するために、数々のセクターを横断的に巻き込んでいくアプローチをとっている。このアプローチをとることによって、医療だけを特化して見ていてはだめなのだということも併せて訴えようと思っている。
3. 栄養の観点からのミレニアム・ビレッジにおける活動
■ 発育不全の問題
発育不全とは、慢性的に栄養が欠乏した結果生じるものであり、たとえば微量栄養素が足りなかったり十分な食料がとれていなかったりすると、その結果、感染症等にもかかりやすくなるといったような問題が多々生じてくる。そして、発育不全になると単に年の割に背が低いという問題に終わらず、ひいては脳の発達や認知能力の発達にまで影響を及ぼす重大な影響が生じる。一旦こうした脳や認知能力に対する影響がでてしまうと、そこから回復させるのは非常に難しい。
たとえばウガンダにおいては、5歳未満の子どもたちのうち、発育不全の状態にある子どもたちの割合は60%である。つまり、大半の子どもたちが常に栄養が足りない状態で苦しんでいるのである。
■ 栄養の観点からみた目標
私共の栄養の観点から見た目標と言うのは、まず、十分な量の食糧が通年手に入るようにして、飢餓の撲滅をすることである。
そしてもう一つの目標として掲げているのが、より良い栄養を提供できるようにすることである。特に、妊娠中の女性や授乳中の女性、そして乳幼児がより良い栄養を口にすることができるようにするということが目標なのである。従って私たちが対象とする人たちと言うのは主に、子どもたちと母親たちになる。私共では「最初の1000日」と呼んでいるが、母親が妊娠した段階から実際に生まれた子どもたちが2歳になるまでの1000日間をターゲットとしている。
三つ目の目標は、発育不全の子どもたちを3分の1に減らすというものであり、これは極めて難しい目標である。
四つ目の目標は主食に関するものだが、主食が全体の食事に占める割合を、50%~60%に減らすというものである。現在は米等の主食が90%を占めているので、この割合を下げ、もっと質の高い食料品の摂取率を高めようとしている。
■ 統合されたアプローチ
私共は栄養の分野に対して統合されたアプローチをとっている。健康面、医療面に関する介入としては、子どもたちにサプリメントを提供したり、栄養失調に苦しむ子どもたちに処置を行ったりしている。学校ベースのアプローチとしては、給食を全ての子どもに提供することによって栄養の分野の問題に取り組んでいる。また、世帯あるいは地域社会をベースにしたアプローチを、私共は食糧主導型のアプローチと呼んでいる。つまり、食糧を真ん中に据えることによって、食生活にもっと多様性をもたらそうという取り組みを行っているのである。たとえば農家でトウモロコシだけを栽培するのではなく、それ以外にマンゴーの木や野菜を栽培したり、養鶏をするといったようなことを称揚している。このような統合型のアプローチをとることによって、作物の多様性も生まれ、また作物の多様性がひいては所得、収入源として帰すると信じている。そして、こうした栄養の問題を解決するために、様々なセクターが一体となって活動している。
4. 事例研究―サウリ村(ケニア)
■ サウリ村について
以上のように統合されたやり方によって非常に面白い結果が生まれつつあるのが、サウリというケニアの西部に位置する村である。ここは私共のプロジェクトで最初に手掛けた村であるが、オバマ氏の父親が生まれたところから10キロほど離れたところにある村だ。
サウリ村は、人口は55,000人で、村人の70%が1ドルに満たないお金で1日を暮らしているという状態である。農家がほとんどだが、いわゆる自給自足農家で、自分たちが食べるものだけを作って生きているという自作農がほとんどである。そして、この農家の人たちが主に作っているのがトウモロコシである。
もしチャンスがあったら皆さまにも是非このサウリに行かれて、その目でご覧になっていただきたい。電気も水道もないこれほど貧しい村から30年(?-事務局)経たないうちに、アメリカ合衆国大統領が輩出されたということを目の当たりにされると、声も出ないのではないだろうか。私共の目から見ると本当に何もない村である。ちなみに、大統領の出身地はクゲロという村である。
■ 作物の収量の増加
主食であるトウモロコシの1ヘクタール当たりの年間収穫量は、プロジェクト開始前は2トンほどだった。年間2トンというのは、生きていくだけで精一杯の量でしかない。しかし、私共が活動を行った結果、その収量が5トンに増えた。今までよりもより良い種、干ばつに強い品種の種を提供することによって収量が増えたのである。それにより、プロジェクト後はより良い生活が送れるようになっている。
■ 医療サービスの向上
診療所が建設され、沢山の方が利用している。この診療所で薬を渡すこともできるし、様々な検査ができるラボラトリも備わっている。こうした医療に関するサービスは、現在進行形で良くなっているところだが、以前はこういった医療サービスが全く受けられない状態だった。ここで活躍しているのが地域のヘルスワーカーと言われる人々だ。この人たちが一軒一軒戸別訪問をして、母親に栄養に関する教育、啓蒙活動を行ったり、基本的な薬を渡したりしている。
■ 給食の改善
以前は、三つの石でできた本当に粗末な原始的な炉のようなものを使って、たきぎをくべて調理をしていたが、石油燃料を用いたより良い環境での調理が可能となった。これにより、エネルギー消費量も少なくなり、より良い環境で給食を提供できるようになった。
現在サウリの村では、1日17,000人に近い子どもたちに対し給食を提供しており、その給食のもととなる食材と言うのはすべて地域社会から提供されている。この結果、就学率が12%上がった。学校に行けば食べ物が食べられるということになると、子どもは学校に行くようになるのだ。通常ケニアでは、子どもは学校に行かず就学年齢であっても家にとどまりお母さんの手伝いをしていたが、現在は給食があることから、子どもの就学率が上がり、また学校に残って勉強を続ける子どもたちの数も増えている。特にこの傾向が顕著なのが女児である。女児は、結婚年齢が早く(13歳や14歳で結婚する)、学校を辞めていたが、こうした女児が学校に残り、学校に行けば給食があるからと通ってくれるようになった。このプログラムは大成功を収めており、私共のプロジェクトの中でも非常に特徴のあるプログラムに成長している。
■ 食物の多様化
農家が栽培する食物も多様性に富んだものになってきている。現在はほとんどの世帯に家庭菜園があり、そこで食べられる物を育てるようになっている。また、家畜も飼うようになった。
■ 自助努力の始まり
上記のような変化の結果、村の人々が所得を生み出す活動をするようになった。たとえば酪農品の生産を行ったり、魚の養殖を行ったり、養蜂を行ったりしている。今までだったら土地にしがみつき、そこでできる作物だけしか見ていなかった農家の人たちが、自分の手で努力して、たとえば工芸品を作ったり、養蜂をしたり、女性が集まってグループを作って何か新しいものにチャレンジしたりと、こうした活動も生まれるようになっている。1日1ドルと言う極貧の状態からなんとか抜け出そうと、自分たちの手でなんとかしようという動きが生まれつつあるのである。
■ 栄養について
以上のような全てのものがあいまって、より良い栄養という目標の達成に向かっている。プロジェクト開始から3年後の状況においては、プロジェクト前に比べ、村の人々の食事が非常に多様性に富んだものとなり、今までよりもずっと肉や豆、そして果実を摂るようになってきている。しかし、それでも、肉や卵を毎日買うことはできない状態である。
■ 子どもたちの発育状況
私共が介入を始めた時期に生まれた子どもたちは、発育不全に苦しむ割合が非常に低くなっており、介入をすることによって子どもたちのメリットが大きいということが示されている。栄養失調を見るのに一番重要な指標である低体重と発育不全についても、どちらの指標も非常に良い結果が出ているのがわかる。
■ ビタミンA欠乏症の減少
ビタミンA欠乏症の子どもたちの割合は、70%から30%へと大きく減少している。
■ 今後の取り組み
上記の内容を総括すると、様々なビタミンの中でもビタミンAの問題については引き続き取り組んでいきたいと考えている。HIVについては、アフリカの東部においては大きな問題となっているので、たとえばHIVに苦しむ患者に栄養価の高い食品を提供するといったような活動をしていきたい。そして三つ目が給食の問題である。もう一つが多様性に富む食事ということで、農家の方が栽培する食物についても多様性が出てきているし、学校や家庭での栽培を通して、食事における多様性を引き続き称揚していきたいと考えている。医療については、地域のヘルスワーカーに更に頑張ってもらって強化していきたいと思っている。
5.結論
■ 栄養の分野について
栄養の分野というのは様々な問題が絡んでおり非常に複雑であるが、往々にして、とても重要であるということが忘れられている分野でもある。あまりにも複雑すぎることから、どうやったら改善できるのかということを、理解できていない方が沢山いるのが問題である。たとえば日本であっても、どうしてこれを食べなくてはならないのかということに、正しい理解をもっている方は非常に少ないと思うし、同じような状況が他の国においても見受けられる。栄養という問題はこれほどに複雑であるから、往々にして後回しにされるということも起こってきた。
更に、資金不足により、きちんと訓練を受けた栄養士の方がいないという別の問題も生じてきている。たとえばコンゴ共和国を例にとると、きちんと訓練を受けた栄養士は二人しかいない。そして、そもそも訓練を提供する側の人もいないということも問題である。
同じ教育訓練に関していえば、クリニックで働くスタッフもしかり、また、地域のヘルスワーカーもしかり、なかなかきちんとした訓練を受け難い状態にある。
そして、最後にやはり重要なのが、飢餓を止めればすぐに栄養失調の問題が解決できると思ってしまう人がたくさんいるということだ。確かにおなかがすいているという状態だけを止めたいのであれば、沢山お米を食べさせてあげればそれで終わるだろう。しかし、お米だけを食べていては、飢えは治まるかもしれないが、真の意味での栄養失調の問題が解決したとは言えない。
■ 肥満の問題
一方、どのような国であっても、貧困の状態から富裕国になるにつれて肥満が増えるという傾向がみられる。人が太ってしまうということは、アメリカを見ても、メキシコを見ても、すぐにおわかりいただけると思うし、たとえば現在進行形で中国がそれを目の当たりにしているところだ。子どもたちの40%が太っているという状態だから、国際社会としてどうやって将来起こりうる問題に対処するのか、大きな懸念事項となりつつある。
10億人の人たちが飢えに苦しみ、同時に別の10億人の人たちが過剰体重ではないが真正の肥満という状態に苦しんでいるのである。そして、この問題がアフリカで起こらないようにするためには私たちに何ができるのか、これが今新しい問題として生まれつつある。というのも、富裕国になるにつれて、西側のような食生活をしたいと望む状況が起こるのを、アフリカでどうやってとめられるのかということを考えねばならない。一度、生活習慣病(たとえば心臓病や糖尿病、卒中といったもの)がアフリカで起こってしまうと、それを止めるためのインフラが全くないので、これは差し迫った危急の課題であると考えている。実際に私共が活動していた村の中には既に肥満に苦しむ人たちも出てきつつあるのだ。タンザニアや南アフリカといったところに行くと、デンプン質の摂りすぎで非常に太った女性の方々が出るような状況に今なりつつある。だからこれは世界中のどこでも起こりうる危険として皆が真剣にとらえねばならない。
2030年には世界の70%が都市化されると言われているから、その時には今申し上げた問題が本当に現実のものとなっているに違いない。その段階では単に各国の問題ではなく、世界の問題として捉えねばならない。そして、どのような手を打たねばならないのかということを今から考える必要がある。それができなければ大きな代償を支払わねばならないだろう。
■ ミレニアム・ビレッジの目標
最後に、ミレニアム・ビレッジが常に将来を見据えてやっていくための具体的な目標を申し上げて締めくくりたい。
まず大きな目標としては、何と言っても飢餓に終止符を打ちたい。
次に、栄養に関する安全保障を改善し、栄養面での改良を行っていくことが目標に据えられている。
更には、私共が活動を展開している地域社会において、栄養に関する負の変革(肥満)が起こらないようにしたいと考えている。というのも、既にHIVやマラリア、そして様々な各種感染症等の大きな負担を強いられているのが現状であり、それに加えて肥満という更なる負担がかかることは絶対に避けねばならない。
そしてもう一つ最後に加えたいのが、私が日本に来て身をもって体験した、環境によく、おいしく栄養が摂れる、エコガストロノミーである。是非私の日本でのこの経験を、アフリカの村の人にも経験してもらいたいと思う。日本では各国の料理を食べることができ、色々な味や料理法を楽しむことができる。ガストロノミーとは美食ということであるが、アフリカの人々にも食べる楽しみを是非味わってほしい。これはミレニアム・プロミスの活動の力を借りて是非達成していきたいと思う。
【質疑応答】
Q1:サウリにおいて、地域のヘルスワーカーはどうやって教育訓練をされたのか。
A1:通常は、私が今日のような形で通訳の方を介してトレーニングセッションを行っている。しかし、サウリについては、通常の他の地域とは違う状況だった。というのも、植民地時代のイギリスの置き土産と申しては何だが、素晴らしい教育制度があったことから、ケニアには既に沢山の栄養士がいる状態だったのである。よって、サウリにも既に二人の栄養士がいたので、その方たちと協力して地域のヘルスワーカーの方々に、より手厚いサポートを提供することができた。ただし、他の地域、たとえば大虐殺後のルワンダのようなところは、国中探し回っても一人も栄養士がいないという状況だった。こういったところだとモデル自体を上手く回していくのが非常に大変だった。
なお、通常は、私とアフリカの方々とで、一緒にトレーニングセッションを行っている。というのも、最終的には私のような外部の人間ではなく、現地の方が教えていくことが非常に重要であると考えているからである。時間はかかると思うが、現地の方が実際にやっていくということを重要視しており、現地の大学あるいは現地の教育機関と協力するということが非常に重要であると考えている。
Q2:サウリについては、プロジェクトとしての活動を既に終えてしまっていて、現地の人たちが自分たちでお互いに助け合いながらやっているということか。
A2:プロジェクトは5年計画になっているので、5年目に当たる現在はまだ活動を展開している。そして、5年が終わった時点でも更に5年間プロジェクトを延長できないかと考えている。ただし、次の5年の期間については、投入する資金あるいはリソースが今までよりも少なくなるとは思うが、ある一定のレベルでやっていきたいと計画しているところである。なぜなら、今の時点ですぐに去るということになると、まだコミュニティだけで自立することができない状態にあるからである。究極的にはコミュニティ、そしてケニアの政府が、私共が提供しているサービスを引き継いで自立できるようになるところまでもっていきたいと思っている。
Q3:さきほどのお話の中で、ほとんどの人は1日1ドルに満たない生活をしているということだったが、おそらくさまざまなサポートを提供することによって収量が上がり、換金作物を市場で売ることによって所得が上がったのではないかと思われる。どの位上がったのかというのを具体的な数値があれば教えていただきたい。
A3:データはあるが、今は様々な調査がなされ解析されている段階である。調査自体も色々な観点から行われている。たとえば社会経済学的観点、あるいは医療の観点、農業の観点と、色々な観点から行われているが、そもそも所得というデータをどう捉えるかというのが非常に難しい。というのも、給与というものがないので、所得をどうやって金額ベースに換算していくかというのが難しいのである。アフリカにおいて裕福になったというのは、家を建てて新しい屋根を葺いた、あるいは、ラクダが何頭増えたから前よりも豊かになったというようなカウントしかできないので、ミレニアム開発目標の数値目標、つまり1日何ドルベースという数字に換算していくのが極めて難しいのである。そして、現在もそれに係る様々な調査が進行中である。ただ、個人的な非定量的な観察から言わせていただくと、収入は増えていると思うが、統計的に見てまだ有意だといえるところまでは増えていないと思う。おそらく1日に2ドルから3ドル程度で、自給自足を十分にできる状態にはなっていない。
Q4:紛争や内戦が起こっている国については活動を展開しないという説明があったが、たとえば平和維持軍が投入されること等によって一旦平和が取り戻されたら、そういった国にも入っていってサポートを提供するということはあるのか。
A4:内戦等が終わり安定した状態になれば活動を展開することはある。たとえばリベリアは3年前まで内戦に苦しんでいたが、現在は活動を展開し始めたところだ。ただ、原則としては、国の政府がまず私共に接触してきて、私共の方からサックス教授に接触し、サックス教授がその国に適切だと思われるモデルを構築した上で、実際の活動が始まるという流れになっている。そもそもリスクが大きいような国に対して私共のプロジェクトメンバーを送りたくないので、安定し、なおかつ政府が貧困から国民を助けたいという意思を見せて初めて介入するようにしている。その例として、リベリア、まだどうなるかわからないマダガスカル、更にはまだストレスのかかっているハイチのような国が挙げられる。ただ、ジンバブエという国については、国家元首の現在の状況から、私共も関わらない状態になっている。
WFPや国境なき医師団等、他の人道的援助を提供している組織は入っているのに、なぜ私共のプロジェクトは入らないのかということを疑問に思われるかもしれないが、それは、そうした組織と私共が使っているモデルが全く違うからである。私共が基礎としているモデルと言うのは、長期的な開発を主眼に置いたものであり、他の組織は、危機も厭わずにやっていく短期的な開発を目途としたモデルになっている。
Q5:村の人々が経済的に自立した段階に達し、プロジェクトが出て行ってしまった後、医療等の必要不可欠なコミュニティサービスをどのようにして維持していくのか。
Q5:全く同じ点について、プロジェクト内で今熱い議論がかわされているところである。私共が今提供しているサービスを、コミュニティが全て自分たちの力で維持していくというのは極めて難しいと思う。一番難しい点は、給食プログラムであり、次が医療、健康に関わるプログラムになるのではないかと思う。政府は、こういった医療サービスについて、支払う意思がない、あるいは支払いたくても支払う能力が無いという状態なので、村人に支払わせたらどうかという見方をする人たちが一部にいた。ただ、私共のプロジェクト全体としては、最終的に今の段階では長期的な自給自足が達成できない状況であることから、無料で医療サービスも提供しようという結論に至った。たとえば、もし政府がこうした医療サービスについて補助金を出して支援していくということになると、その金額は多額なものになる。だから先進国であるアメリカですらヘルスケアや社会福祉の問題についてあれほどの議論が巻き起こっているのである。将来、長期的に持続可能な制度としていくためには、誰がどれ位の負担をしていくのかというところが、現時点では全く不明な状態であるため、おそらく将来になってこうした問題が出てくるのは間違いない。政府も、たとえば給食プログラムについて補助金を出したいという意思があるところもあるが、あまりにも貧しいことからそれができないのが現状である。給食だけではなく、国中の村々に対してすべからく国民の手に良い種と肥料をそのために補助金を出そうと思っても、これも難しい。よって、いずれ問題が出てくることは間違いない。おそらくその時点では、多くの政府が出来高払いということで、役務の提供に対して支払いを求めるという形になってくると思う。その時点で、今度は逆にお金を払えないという人たちが出てきて、また新たな問題が生じるのではないかということが懸念される。

以上

ケニアのビレッジが干ばつにより緊急事態になっています!

Dertu のらくだ.jpgDertu 干上がった河川.jpg
【写真左: 干ばつの影響で立ち上がれず、棒を使っても歩かせることができなくなった駱駝】
【写真右:乾いて地表が露出した河川】

ソニア・サックス博士から、ケニアのミレニアム・ビレッジ、Dertuが干ばつにより、厳しい状況に陥っているというレポートが届きました。
Dertuはケニアの北部にあり、もともとは遊牧民の村です。ミレニアム・ビレッジ・プロジェクトにとっても、遊牧民の定住と自立を図るという目的達成に向けて努力している特別な村でもあります。設立当初から日本政府が支援しているため、現地の担当者は日本に対して非常に良い印象を持ってくださり、エチオピアの会議でお会いした時も、わざわざ挨拶に来てくれました。
彼らがこの危機を乗り越えることができるよう、皆様のご協力をお願いします!

鈴木りえこ

 

アフリカの角と大陸東部を襲った2009年の壊滅的な干ばつ

 

Dertuミレニアム・ビレッジでの経験と対処方法

気候変動がケニア北部およびDertuで現実のものとなっている。2006年11月、12月以来この地域ではにわか雨しか降らず、遊牧を基本とする地域の牧草地と水の状態は次第に悪化していった。さらに2009年4月、5月は雨に恵まれなかったため干ばつは次第に悪化し、遊牧民のコミュニティはパニックに陥り始めた。伝統的なやり方に従って地域住民は渇いたラクダや牛のほとんどを(沿岸沿いの)ソマリア奥地の改良地域やエチオピアの高地に移したが、羊、ヤギ、乳牛、駱駝の雌親、さらにロバについては地域内にとどめ置かざるを得なかった。間もなく河川が乾き地表が露出して牧草地と水の距離が広がり(写真1a)、気温の上昇によって牧草が茶から黒へと変色した(写真1b)。その結果Dertuや周辺の村に残されたやぎ、羊、畜牛およびロバが推定で30%以上失われ、干ばつに最も強い駱駝さえも犠牲になった(写真1c)。また2007年の初めにコミュニティが地元で作った数千の干し草ロールや蓄えておいた鞘が2009年9月には底をついた。
そこで住民たちは伝統的な対処法に従って子牛、子ヤギや子羊を殺し、希少な常緑樹を切り落とし、家畜を遠く隔絶された牧草地へと移動させた。弱り始めた家畜の間には日和見感染が広がり始め、さらに数少ない安全な井戸から塩水が出たことで状況は一層悪化した。加えて家畜の値段は通常の市場価格よりも70%以上も下落した。このような状況を受けて災害弱者(5歳未満の子供たち、妊婦、授乳中の女性や高齢者)の栄養不足は顕著となり、牧畜農家からは脆弱な者たちが政府やパートナーたちから食糧、水や医療支援を受けるために入植地に移住した。
他方普段は用心深い野生動物も難を逃れることはできず、生きるために町や入植地、さらに主要な道路に徐々に姿を現し始めた。イボイノシシや鳥などの草食動物は死んだ動物を食べざるを得ず、さらにイボイノシシが生きた山羊や羊、さらには自らの子供を食べているのが目撃されいる。
地域の政府とコミュニティは食糧支援、治療および給水などの形での支援を外部に求め始めた。しかし干ばつがあまり深刻で、問題があまりに広範囲に及び、さらに他の地域に対する約束もあるため、開発パートナーからは十分な支援を受けることはできなかった。代わりに地域政府は自らが保有するわずかな資源を動員し、またDertuのミレニアム・ビレッジ・プロジェクト(以下MVP)などの研究開発プロジェクトが被害への対応を余儀なくされた。
畜産省の支援を受けたMVP-Dertuは家畜に対する集団治療とワクチン接種を通じて2009年7月にDertuおよび近隣の村で活動を開始した。予期される干ばつを乗り越えることができるよう、およそ3万頭の家畜に治療を施し、ワクチンを接種した。さらにプロジェクトは月一回の総合的な訪問医療サービスと、Dertuの診療所に対して必須薬品を提供している。
2009年8月にプロジェクトが実施した干ばつの調査では、過去3年間で上げた成果が干ばつにより損なわれていることが確認された。そこで東部および南部アフリカMDGセンター、地球研究所、ミレニアム・プロミスおよびその他のパートナーの支援を受けて、プロジェクトは迅速で適切な行動をとることを決定した。プロジェクトとミレニアム・ビレッジ諮問委員会(コミュニティの一機構)はただちにDertuを対象とした地域災害対策委員会を結成し、内陸部の奥深くから8か所の主要な遊牧民干ばつ対策サイトを選定し、災害弱者や脆弱な家畜のために水、薬品、および飼料を提供することを決めた。具体的には以下のような活動が災害対策サイトで実施された:
• 給水:12のサイトを対象に、トラック2台を使って1日平均24,000リットルの水を毎日少なくとも2ないし3の牧畜サイトに提供。宗教指導者や選挙区開発基金(CDF)からも支援を受けた
• 井戸用ディーゼル燃料:計3,200リットルを提供
• 井戸用発電機を使用可能にした
• 国立上下水道公社(NWCPC)およびアリッド・ランズ社(Arid Lands)の支援を受けて新たに井戸を採掘して設置した
• 貯水タンクを調達:6,000リットル7基と3,000リットル2基
• (人に対する)栄養補給:スキム・ミルク、油、ふるいにかけたトウモロコシの粉、簡単な疾病治療
• 重症患者をDertu診療所及びGarissa州病院に紹介
• 家畜用飼料(トウモロコシの皮、サバンナ・アカシア(Acacia tortilis)の 鞘)、家畜用薬品および治療(寄生虫駆除剤、マルチ・ビタミン、抗生物質、抗原虫剤)
教訓:
• 乾燥地および牧草地を利用した領域内のいかなる研究開発活動にも緊急対策キットは不可欠である。気候変動の影響を克服するためにキットに寄与することは国際社会の道義的な責任である
• 国境を越えた集団放牧を承認して権利を付与し、乾燥期の伝統的な越境移住ルートを保全する必要がある
• このような環境下では家畜減らしに対する啓もう活動を行って意識を高めることは非常に重要である
• 干し草をロール状にして貯蔵し、また高価な木や低木を保全することは優先されるべきである
• 人と家畜の疾病の監視、治療、ワクチン接種および地域における早期警戒システムは常に不可欠である
• 給水コストを削減するためには、適切な場所に設置されコミュニティの機関によって運営された恒久的な水源(乾燥期に限定して遊牧民が使えるもの)をさらに数多く支援する必要がある。

翻訳ボランティア:加藤尚子
3 / 3123