ミレニアム・プロミス・ジャパン(MPJ)

極度の貧困は根絶できるはずだ
私たちの孫の時代ではなく、
私たちの世代のうちに
極度の貧困は根絶できるはずだ  私たちの孫の時代ではなく、私たちの世代のうちに

東大シンポジウムのレポート

20080511_poster.jpg去る5月26日、東大において開催されたシンポジウム「アフリカの貧困削減と日本の役割」のレポートが完成いたしました。

シンポジウム概要

日時: 5月26日(月)15時~17時
場所: 東京大学 本郷キャンパス 医学部教育研究棟14階 鉄門記念講堂 
     テーマ: 「アフリカの貧困削減と日本の役割」
講師: ジェフリー・サックス (コロンビア大学地球研究所長)
     ユッスー・ンドール (ユニセフ親善大使、セネガル出身グラミー賞受賞歌手)
     藤谷健 (朝日新聞社 外交・国際グループ次長)
     遠藤貢 (東京大学教授)
モデレータ: 北岡伸一 (東京大学教授、前国連次席大使)
主催: 東京大学
共催: 朝日新聞
後援: 外務省、日本ユニセフ協会、ミレニアム・プロミス・ジャパン

シンポジウム報告

1.冒頭挨拶   小宮山 宏 (東京大学総長)

Prof.Komiyama日本にとってアフリカは遠いという印象があったかもしれない。しかし、アフリカの貧困問題は地球温暖化、テロとの戦いと並び、グローバルな三大課題の一つと言ってよい。実際に、2005年の英グレンイーグルズ・サミットでもアフリカ問題はしばしば取り上げられおり、日本で28日から開催されるTICAD(アフリカ開発会議)には、アフリカから44人もの首脳が参加することになっている。これほど多くの首脳が集まるのは滅多にないことであり、日本もいよいよアフリカ外交に力を入れ始めているといえる。このTICADに、著名な経済学者でアフリカの貧困削減に重要な役割を果たしているコロンビア大学のジェフリー・サックス教授と、セネガルの大歌手でユニセフ親善大使のユッスー・ンドール氏が参加することになっている。本学法学部の北岡伸一教授が国連大使を務めていた時に、アフリカの貧困削減問題について一緒に取り組んでいたというご縁でお二人をお招きし、朝日新聞のご協力と、外務省、日本ユニセフ協会、ミレニアム・プロミス・ジャパンのご支援を得て、本日のシンポジウムを開催することとなった。

日本はこれまでアジアを中心に多くの経済援助を行い、大きな成果を上げてきた。実際に、韓国、中国、東南アジア等、日本が援助を行ってきた多くの国が経済成長を実現している。その経験をアフリカで活かすことができるかどうかというのは、知的にも実践的にもきわめて興味深い重要な問題である。おそらく、日本のアジアにおける援助の経験がそのまま通用するというわけにはいかないだろう。しかし、日本のアジアでの援助の経験、また、日本自身の近代における経済発展から様々な教訓や経験を引き出すことはできるはずである。もちろん、これまでの日本の援助や他の諸外国の援助に問題がなかったわけではない。それらのことを含めて、日本の果たすべき役割、果たし得る役割について、本日は議論していただきたい。
日本のODAは、政府が巨額の財政赤字を抱えているために年々削減され、世界5位にまで落ち込んでいる。これを反転・増加すると同時に、どうすればより有効な援助にできるかを考えることが不可欠である。我々はただ資金を増やせばよいという状況にはないのであり、知恵を出して質的向上を図る必要があるのである。アフリカは過去6年間、5%を超える成長を成し遂げてきた。貧困の大きな原因だった紛争は、スーダンやソマリアなど一部を除いて収拾の方向にあり、私はアフリカの貧困削減は可能な課題だと信じている。そのための様々な工夫が現になされており、成果をあげつつあると聞いている。
私は就任以来、大学の国際化を目指し、130の海外拠点を設けるなど世界各地の大学との連携を強化してきており、アフリカも視野に入っている。今日は多くの学生諸君も参加している。アフリカの問題に関心を持ち、関与していこうという気持ちが学生の中にあるなら、こんなに嬉しいことはない。本日のシンポジウムには、ジェフリー・サックス氏、ユッスー・ンドール氏のほかに、本学の若いアフリカ専門家である遠藤貢教授、朝日新聞の優れた外報記者である藤谷健氏が参加される。ぜひ実りある議論をしていただき、日本政府と世界に向け、アフリカ問題について有益なメッセージを発していただけるものと大いに期待している。
2.基調講演 (1)サックス教授
TICADの開催国であり、G8の議長国である日本にとって、今週は重要な一週間である。今後2ヶ月間は世界の注目が日本に集まることになる。アフリカの貧困や気候変動などの深刻な問題について、日本が大きな指導力を発揮することを期待している。
■ 日本の経済発展と援助実績
すべての成功した開発実績というのは、日本と関係していると言っても過言ではない。なぜなら、日本こそが、経済発展の方法を発明し、実現してきたからである。この28年間、私は大学で経済開発について教えてきたが、学生たちに講義をする時には、日本を手本として取り上げ、明治維新から話を始めている。また、小宮山総長から今お話があったように、東南アジアにおける1960年代から70年代の発展についても、日本の優れた指導力と援助が大きな役割を担ったといえる。例えば、マレーシアやインドネシア、タイなどの国々が貧困から抜け出し大いなる成長を遂げたのも、日本の役割があったからこそである。これらの経験に基づく教訓は、アフリカにも応用できる。日本が大きな役割を果たせば果たすほど、アフリカは貧困撲滅を達成し、大きな経済成長を果たす可能性が高くなる。よって、今後数年間でアフリカ向けODAを増額させるという日本政府の公約は、非常にエキサイティングなものである。
■ アフリカの現状と改善の可能性
アフリカはまだまだ農村社会であり、人口の7割は農村地帯に暮らしている。そして、極端な貧困に悩む人の8割が農村に集中している。こうした地域の大半は、安全な水、学校、診療所、人々の生計を支えるだけの雇用などの、基本的な生活上のニーズを満たしていない。
こうした、絶望的な経済状況の地域ですら、ミレニアム開発目標を達成する道筋はある。私は過去3年間、国連事務総長である潘基文氏の特別顧問という役割を務め、日本政府と共に、アフリカ最貧国でも極貧の状態から抜け出す道があるということを示す取り組みを行ってきた。外部からの多少の支援と、地域社会の人々のリーダーシップが、健全かつ妥当な形で合わされば、極度の貧困から抜け出る道が必ずあるのである。それが、コフィ・アナン前国連事務総長の下で導入され、潘基文・現事務総長に引き継がれた「ミレニアム・プロジェクト」から生まれた「ミレニアム・ビレッジ・プロジェクト」である。
■ 日本が貢献できる4つの方法
日本政府がミレニアム開発目標達成のために貢献できる4つの方法を紹介したい。
①日本政府も支援しているミレニアム・ビレッジ・プロジェクトを通じ、人間の安全保障の概念を実践すること。人間の安全保障は、そもそも日本が作り出した概念である。
②ミレニアム・ビレッジ・プロジェクトの概念を新たな国々に広げること。
③ミレニアム・ビレッジ・プロジェクトの教訓を全国レベルに拡大すること。
④農業やインフラ、情報通信、医療などの各分野における日本の最新技術を通じ、アフリカの人々の問題解決を図ること。開発の成功は、技術をいかにうまく利用できるかにかかっている。日本こそが世界の重要な分野のもっとも先進的な技術を生んだ国なのであり、日本の企業が、大学や政府と連携をすることで、アフリカの国々を助けて大々的な発展を実現させてほしい。
■ ミレニアム・ビレッジ・プロジェクトの普及状況
ミレニアム・ビレッジ・プロジェクトは、アフリカ全土の各地に分散しており、東はエチオピアから南はマラウイ、そして今ではモザンビークやマダガスカルにも普及してきている。
■ 地域社会によるリーダーシップ
・プロジェクトの始まりは常に、地域社会との集会である。そこから5年間にわたる協力が始まる。村の指導層と協力し、実際的な課題は何なのかを探った上で、地域の生産性を上げ、保健衛生、教育、インフラなどの基礎的なニーズを満たすために、地域社会レベルで実践できる投資が何かを決める。
(例)エチオピアのティグレという世界で最も貧しい地域にある村では、数千人もの村人が集まり、地域社会の将来について話し合った。
・プロジェクトにおいては、常に地域社会がリーダーシップをとる。極貧だった村が経済発展の一歩を踏み出すのに必要な生産性をもたらすため、プロジェクトによる投資を伴った支援が必要となるのである。
■ 貧しい村が直面する問題①-マラリア
最初に我々がぶつかる課題はマラリアをはじめとする感染症である。毎年100万人から300万人もの子どもが、この病気の予防手段をもたず、治療を受け遅れたために、命を落としている。殺虫剤処理された蚊帳さえあれば、マラリアを予防できる。アフリカでは、診療所不足のために、一台のベッドに2、3人の患者が寝かされていることがあり、水や電気が通っていないこともある。こうした診療所では、問題を解決できない。アフリカでは、貧困や、基礎的な保健医療にアクセスできないために、年間500万人の子どもたちが5歳の誕生日を迎える前に死亡している。
・診療所
ケニア西部の村では診療所がなく、必要としていたため、地元自治体が設計図を提供し、我々は1万ドル相当のレンガや屋根、電線などを提供した。こうしたほんのささやかな援助によって基盤を作り、女性たちが水を運び、男性たちがレンガを積み、たった6週間で診療所を建設することができた。今では診療所は毎日200人の患者を診察しており、目覚ましい変化である。たった1万ドルの支援で、村の生活が一変したのである。
・蚊帳
住友化学は、ケニアやエチオピアなどの住民のため、マラリア予防の蚊帳36万帳をミレニアム・ビレッジ・プロジェクトに寄付した。蚊帳の素材の中には殺虫剤が織り込まれており、5年間の効力をもつ。その結果、近隣の村でマラリア感染者が増え続けたのに対し、これらの村では劇的にマラリアの発症率が減少した。最新の調査では、マラリアの発症率は以前のたった15%、つまり6分の1にまで落ちたとの結果が出ている。
村の人々はあまりに貧しいので蚊帳を買ったり、診療所を作ることができない。しかし、このように、わずかな支援が非常に実際的な変化をもたらすのである。
■ 貧しい村が直面する問題②-水の問題
気候変動等によって、水不足は非常に深刻な問題である。エチオピアでは、降雨量が大幅に減少し、川が干上がってしまった。技術を使えば、人々が安全な飲み水を得たり、灌漑用水を得ることができる。井戸を掘ったり、溜池を作ったりすることで、低予算でも劇的な生活改善につながるのである。
■ 貧しい村が直面する問題③-農業
・農業の現状
農業は、貧困から抜け出すための最も重要な課題である。アフリカの人口の7割は農業を生計手段としている。しかし、穀物の1ヘクタール当たりの収穫量は、世界で最低の水準である。これは、農民たちがあまりにも貧しいために、改良された種子や肥料などを買えないことが原因である。
近代的な改良された種子を開発したのは日本である。日本の経済発展は20世紀初めから始まっており、コメの品種改良から始まっている。日本には「緑の革命」があったのである。ネリカ米という品種の名を聞いたことがあると思うが、アフリカにとっての近代的な品種である。日本の稲の品種と交配したものであり、収穫量が高い。ただ、問題は、貧しい農民たちが自分たちでそうした種子を買うことができないことである。そのため、支援が必要なのである。
・ミレニアム・ビレッジ・プロジェクトの取り組み
ミレニアム・ビレッジ・プロジェクトでは、農家の生産高を上げるため、最初は無償援助を行い、後は融資を行うという形をとっている。マラウイのトウモロコシ農家は、以前は1ヘクタールあたりたった0.8トンしか収穫できなかったが、プロジェクトを行って種子と肥料が手に入ると、今や5.5トン収穫できるようになった。これは7倍にあたり、極端な貧困や飢饉を減らすことにつながった。同様に、プロジェクトを行ったすべての村において、収穫は増量しており、ナイジェリアでは3倍以上、タンザニアでは4.5倍以上、ウガンダでは2倍以上となっている。これこそがアフリカにおける「緑の革命」である。しかしこれを始めるには援助が必要である。アフリカの貧しい農民は、自力で初期投資を行うことができないのである。また、我々はラクダを飼育している地域では、家畜のケアや感染症対策なども提供している。農業の生産性を上げるためにできることはたくさんある。たとえば、新たな果樹を育てる養樹園や土壌保全の新しい手法、畜牛や乳牛、鶏などの家畜を貧しい地域の農業システムに組み入れることで、耕作以外の収入源を得られるようになるのである。また、穀物がねずみに食い荒らされたり腐ったりして、ただでさえ少ない収穫量が減ることのないよう、穀物を保管する倉庫を作る支援もしている。
■ 貧しい村が直面する問題④-学校
プロジェクトでは、子どもたちを学校に行かせる支援もしている。
なぜ貧しい国々では子どもたちが学校に行かないのか。多くはマラリアに感染して行けなかったり、時には、地域社会が無料で学校を運営できず有料にしているために、貧しい家庭では授業料を払えないケースがある。また、衛生的なトイレがなく、女の子が月経の間は学校に行けないこともある。こうした問題があることを認識し解決すれば、子どもたち全員が学校に行けるようになる。
・給食
給食を毎日全員の子どもに提供することも、重要な支援の一つである。給食のおかげで、子どもたちは毎日学校に行って、勉強することができる。給食の制度を発明したのは日本であり、20世紀初めには東京で学校給食が始まっていた。日本の教育制度がもたらした革新であり、この制度を私は世界中に広げるべきだと信じている。
・その他の取り組み
我々はまた、4カ月に1度、子どもたちに駆虫薬を配布している。寄生虫駆除は子ども一人あたりたった5セントで済む。これも大事な支援のプログラムである。また、我々は地方政府と連携し、学校の教室を改修し、黒板や机、椅子を備えたりしている。
■ ジェンダーの平等促進
安全な水、子どもの健康改善、食糧生産力の向上など、これらの措置はすべて、地域社会の女性に特に大きな恩恵をもたらしている。アフリカでは女性が畑仕事をし、水を汲み、まきを集め、料理をし、診療所に子どもを連れて行っており、非常によく働いている。どのような研究調査を見ても、男性より遙かに長時間労働をしているのが女性である。プログラムが実施されることで、自動的にジェンダーの平等を促進することにもつながっているのである。これもまた、ミレニアム開発目標の一つである。
■ 村人一人当たり年間6000円の支援
ミレニアム・ビレッジ・プロジェクトは今や、アフリカの十数カ国で50万人の人々を支援している。投資は、村人一人当たり年間6000円しかかからない。たった6000円で、農業、水、診療所、学校への投資が可能となるのである。子どもたちが飢餓や感染症で死ぬのを食い止め、教育の機会を与え、健康増進を図るのに、多くはかからない。実際的なアイデアと実際的な技術、そして、的を絞りこんだ投資を行うことができれば、深刻な飢餓に陥っている地域を、余剰食糧のある地域へと変えるのに多くはかからないのである。
■ 日本の援助
日本の援助は、理論上のものではなく実際的であり、これはすばらしいことである。しかし、更なる支援が必要である。日本はこれまでアジアに対する援助ほどには、アフリカに対する援助を考えてこなかった。しかし、日本が貧困撲滅のためにアフリカに提供できるものはたくさんある。日本がアフリカに対する一層の貢献を行う責任と能力があり、実際に貢献するであろうことを信じている。
■ ミレニアム・ビレッジ・プロジェクトの拡大
こうした支援を拡大するひとつの手段は、ミレニアム・ビレッジ・プロジェクトをアフリカ全体に広げることである。このプロジェクトへの参画を希望するすべての国が、日本政府の支援を受けられることを願っている。今回のTICADで、日本政府は新たに4カ国でプロジェクトの支援を行うこと、その他にもプロジェクトの開始を希望する国があれば、日本大使館のある国、あるいはJAICAが事業を行っている国である限り、申請を検討する用意があることを発表する。プロジェクトがアフリカ大陸の多くの国に広がっていく可能性を秘めており、非常にエキサイティングだ。各国で成功したプロジェクトは、全国的に広がる可能性がある。
■ 世界的資金拠出の必要性
ミレニアム・ビレッジ・プロジェクトに加えて、我々は日本政府と他のG8諸国に対し、4つの重要な分野で全国規模の支援を行うための世界的な資金拠出に貢献をお願いしたい。
①農業
食糧危機においては、アフリカが自前で食糧を生産することが非常に重要である。食糧援助は最後の手段であり、アフリカ諸国の食糧増産を助ける必要がある。われわれは世界銀行とともに、アフリカの農業のための特別基金を作る方針で、日本政府にもドナーとして参加してほしい。
②医療・保険
マラリアやエイズ、結核、下痢性疾患、呼吸器感染、寄生虫感染症などの様々な疾患は、現代の薬品や技術をもって対策を講じることができる。明治維新後、公衆衛生は日本が国の開発において最初に投資した分野であった。経済発展を成功させるためには、保健衛生の向上が求められる。日本政府は公衆衛生に特別な関心を持っており、世界エイズ・結核・マラリア対策基金に一層の拠出を行うことを願っている。
③教育
すべての子供が学校へ行き、毎日、学校で給食を得られるようにすることが望ましい。われわれは、アフリカにおける学校給食事業を支援するために世界中で資金集めをしている日本のNGO「Table for two」と協力している。
④インフラ
インフラもまた、日本の発展の教訓が生かされ、日本の援助が主要な役割を果たす分野の一つである。日本がマレーシアやタイ、インドネシアを援助した時、日本はインフラを整備することでそれらの国々を支援し、進出した日本企業が投資をして利益を上げた。道路や電力などのインフラ整備には日本の支援が必要だ。太陽光発電の潜在性も非常に高い。日本にはシャープや三菱など太陽光発電の優良企業があり、最新の太陽光発電技術をアフリカと共有することができる。
携帯電話やインターネットなどの通信については、ソニーがコンピュータをミレニアム・ビレッジ・プロジェクトに寄付してくれているほか、ソニーエリクソンの携帯電話が地域の保健従事者に提供されている。携帯電話によって、病人のいる家庭と診療所とが結ばれ、緊急の支援が可能になっている。
■ 官民パートナーシップと日本の技術の特別な役割
住友化学の蚊帳は、今後、マラリアを予防するという素晴らしい技術によって、何百万人ものアフリカ人の命を救うことになるだろう。太陽光発電、携帯電話、輸送、コンピュータや、高収量の米といった農業技術などで日本の技術力は非常に高く、民間企業と政府の役割を合わせることで、日本は極めて重要な役割を果たすことができる。
■ 大学の役割
大学には、パートナーシップにおいて重要な役割がある。政府、企業、NGOと大学がパートナーを組むべきだと信じる。ミレニアム・ビレッジ・プロジェクトでは、コロンビア大学が農業、衛生、エンジニアリング、気候変動問題の専門性を生かし、問題解決に協力している。我々は、東京大学がパートナーになり、専門性を活用して問題解決に関与することを願っている。日本の大学や企業が活躍できるよう、日本政府が主導的役割を担うのが望ましい。
■ NGOの役割
NGOも重要である。米国では、ジョン・マッカーサー氏がCEOを務めるNGO「ミレニアム・プロミス」がミレニアム・ビレッジ・プロジェクトを支持している。ミレニアム・プロミスはこれまでにミレニアム・ビレッジ・プロジェクトのために1億ドル以上の個人募金を集めた。そして今、非常にエキサイティングなのは、鈴木りえこ氏が始めたミレニアム・プロミス・ジャパンというパートナーが日本にできたことだ。ミレニアム・プロミス・ジャパンは、こうした役割を果たすため、市民社会や民間企業を動員していく。
■ アフリカのリーダーシップと政府や民間企業、大学、NGOのパートナーシップ
私は、アフリカ自身が主導する真のパートナーシップが、アフリカの貧困問題を解決すると考えている。私が今日話したすべての事業は、地域社会が先導したものであり、我々はいくつかの手段を提供するのを手伝っただけだ。それによって地域社会は、直面する難題を克服するために必要な現代の技術を使い、問題解決に当たることができた。アフリカのリーダーシップと政府や民間企業、大学、NGOのパートナーシップが一体となって、国際的にこうした取り組みを実行していくことが必要である。日本政府、ミレニアム・プロミス・ジャパン、住友化学、住友商事や富士通、GE、ソニー、キッコーマン、三菱商事、三井物産、トヨタ、サントリーなどの企業はわれわれの特別なパートナーである。そして、もしこのリストに東京大学や他の企業が将来加われば、こんなに素晴らしいことはない。
今日は皆さんとご一緒できる機会をいただいたことに御礼申し上げたい。
2.基調講演 (2)ユッスー・ンドール氏
サックス教授の話を聞いて、ギターとキーボードで歌いたい気分になった。彼は彼のチームと共に、アフリカの開発、ミレニアム開発目標のために働いている。今日の講演では日本政府や日本の国民がミレニアム開発目標を達成させるために加速させるべき、すべての点を明らかにした。
■ 日本が取り組むべきこと
日本は、アフリカとの距離を縮めるべきである。「魚をあげるよりも、どうやって釣るかを教えることが必要だ」という格言があるが、日本もそういうことに取り組むべきだ。東欧の壁が崩れた時、日本はTICADというプロセスを始めたが、5年間という年月は長く、この期間を縮めるべきだ。日本とアフリカの間で共生が生まれるように、2年に一度はTICADのような会合が開かれるべきである。
日本は非常に急速に発展した経済モデルであり、アフリカの発展の模範になるべきである。マラリアがあるからアフリカは経済的な開発ができない状態である。アフリカが発展するためには、手を出してお金をもらう必要はなく、むしろ、子どもたちが学校に通えるようにする必要がある。教育はすべてのベースであるからだ。また、また、蚊に刺されないようにする必要もある。蚊に刺されなければ、子どもたちは教育を受けることができるからだ。
■ マラリア対策
アフリカにおけるマラリア対策には年間120億ドルが必要だと言われている。色々な努力がなされているが、120億ドル集めるのは難しい。アフリカの人々がマラリアにかかるリスクを減らしていかなくてはならない。様々な企業や日本政府が努力している。住友化学がアフリカに工場を作ったように、日本は更にマラリアを減らす努力を続けてほしい。すでに10万帳の蚊帳が贈られたが、これを3億帳にする必要がある。こうしてアフリカとの距離を短くする必要がある。
■ マイクロクレジット
アフリカは雇用を必要としている。マイクロクレジットが始められており、これはもっとも貧しい恵まれない人々に関与する分野である。アフリカの銀行は他の国の銀行と同様に、なかなか貧しい人たちにはお金を貸してくれない。仕事をしたくても、保証がなければ銀行からお金を借りることはできない。よって、マイクロクレジットをアフリカ全体に広めるべきだ。
■ 日本の役割
日本は歴史的な機会を得ている。G8の機会を逃してはならない。食糧危機もある。日本はG8の一員として、グローバルファンドの約束(マラリア・エイズ・結核のために使われる)を守って前進してほしい。それと共に食糧危機を回避するための方法を見つけなければならない。地球が警鐘を鳴らしている。農業がアフリカで発展するには、食糧生産を倍増する技術が必要である。食糧を送るだけではなく、もっと中・長期的な目でみて、アフリカの生産技術を高める方法を見つけなければならない。
■ アフリカとの距離を縮めるために
日本がアジアとアフリカとの距離を縮めたいのなら、政府はもちろんのこと、議論をより理解しやすい次元、大学や企業のレベルで協議していく必要がある。
学生の皆さんは将来のリーダーである。アフリカはパリダカだけではないことを理解してほしい。アフリカは新しいテクノロジーと人間の尊厳のための開発を結ぶものである。国連、地域社会は、マラリアの解決をするために、色々な努力をし、実際に減ってきている。しかし、(2010年末を期限とした2000年のアブジャ宣言に基づく)マラリア問題の目標期限までには、あと949日しかない。残りの日にち、ゴールに対して、私達はもっと慎重に進まねばならない。このアプローチは、アフリカの人々からも承認されたアプローチである。ただ、これまでの啓蒙活動が不十分であったと考える。アフリカの状況に世間の関心を引くためには啓蒙活動が必要だ。モデルも解決法もある。これは日本の歴史、経済成長にも教訓が見つけられる。しかし私が日本に今求めたいのは、日本の人々にはとにかく、アジアとアフリカの距離縮める努力をしてほしいということである。
3.パネル・ディスカッション
◆北岡
 私は2004年4月に国連大使としてニューヨークに行き、サックス氏と親しくなった。2005年1月にナイロビにいるサックス氏から電話があり、「オリセットを知っているか?」と聞かれた。その時は何も知らなかったが、この蚊帳を何とかアフリカにたくさん配る方法はないかという話をして、そこから共同作業が始まった。アフリカでのこの蚊帳を普及させるイベントに私の妻が行き、ンドール氏とも知り合いになった。今日はまず、遠藤教授と藤谷氏にお話しいただき、その後、モデレータや皆さんからの事前質問をお答えいただく形で進めたい。
◆遠藤
以下の4点について述べたい。
①昨年11月にマラウイ北部を訪れ、日本の海外青年協力隊OBにより組織された団体によるプロジェクトを視察した。そこでは、プロジェクトの対象となった村が、プロジェクト終了後に、どのようにすれば持続的に開発を続けていけるのかを見据え、可能な限り外部からの資金投入は行わず、農業の作物生産に関する知識を提供していた。利益率の高く、農民にとって高収入になり得る商品であるニンニクの生産を進めた結果、それが比較的成功し、ソーラーパネルの購入にもつながり、自力に近い形で生活水準を改善することに成功した事例だった。
そのプロジェクトの核は、農業成功者の知見を周辺に伝播させることであり、おそらくミレニアム・ビレッジの発想においても、成功した村の事例を他の近隣の村に広げていくというところに将来的な課題なり重要性があると考える。ただ、このプロジェクトがミレニアム・ビレッジと異なるのは、農業という領域に限られていたという点である。たとえば、森林保全等の考え方がないために、せっかく森林に覆われていた土地を、農業生産のために伐採し、雨季の直前に激しい傾斜地に畑を開いてしまうなどの、難しい問題にも直面した。
ミレニアム・ビレッジ・プロジェクトのように包括的なアプローチで極度の貧困を削減するのは非常に利点があると思うが、その伝播のロジック、メカニズムがどのように作られるのか、サックス教授に教えていただければ、日本の関わりにおいても有用ではないか。
②先ほどからオリセットという蚊帳の話が出ているが、これは企業の技術移転、現地の工場建設によって雇用を生み出すプロジェクトとして評価されている、官民挙げての取り組みと言ってよい。今後、官民が取り組む上で、さきほどのソーラーパネルのように、貧困削減につながる技術支援の商品開発に取り組んでいく必要があるだろう。ただ、一点気になるのは、オリセットの有効期間(5年間)を超えた先はどうなるのかということである。それを持続的に更新していく仕組みがないと、あるところでプツンと切れてしまうし、それで捨ててしまえば環境に負荷がかかることにもなるので、そういうことも考慮する必要があるのではないか。
③最近のアフリカにおける経済成長の抱えている問題について。昨今のアフリカの経済成長は急速に進んでおり、それは鉱物資源、原油が牽引力となっている。経済面からすると当該国の為替レートが対ドルで上昇する傾向が出てくると、アフリカにこれから根付くことが必要とされている製造部門を圧迫するのではないかという懸念がある。
原油生産国は、貧困削減では大きな問題を抱えている。アフリカ南部のアンゴラでは2007年に推定で200万バレルの石油が生産されているが、人間開発指標は177カ国中162位という場所に位置づけられている。石油生産は内陸部ではなく、オフショアという海上での生産が中心で、巨額な投資が石油生産部門で行われても、雇用創出に直結しない。その意味で、投資と貧困改善の関係は薄いと言われてきた。ここには、アフリカにおける政治の問題も関わっており、資源開発にかかわる呪いや罠が潜んでいることについて考慮すべきではないかと考えている。
④サックス教授が最後におっしゃった、大学がアフリカ開発にどのようにかかわっていけるのかという問題について。日本にはアフリカ研究における蓄積があるが、政策に結びつくところまでには行っていない。昨日も日本のアフリカ学会で、これまでの研究成果をどう政策につなげていくかということについてのシンポジウムが行われた。従来、アフリカという問題に対する研究が不十分だった東京大学が、こうした領域でどういう位置づけを獲得していくのかということについて、今後検討する余地があると思っている。
◆藤谷
ガーナのミレニアム・ビレッジを見て感じたことと、日本の役割・課題についての2点について述べたい。
①私がアフリカと触れ合うきっかけになったのは、90年代初めのワールドミュージックブームでアフリカの音楽、なかでもンドゥール氏の音楽が流行していたことである。はじめてセネガルに行き、踊り、音楽、人々の優しさに触れたのが初体験だった。ラッキーだったのは、飢餓でも貧困でもないアフリカがスタートポイントだったことである。アフリカに行くたびに思うが、貧困は絶望ではないし、貧しい人が無知なわけでもない。我々は教えてあげるとか何か物をあげるということを思いがちだが、実は彼らはもっと豊かなものを持っていることを忘れてはならない。
ガーナのミレニアム・ビレッジでは、村に行くと、子どもがいるところに必ず蚊帳が吊ってある。ある双子の子どもたちは、この蚊帳のおかげで、最近は全くマラリアにかかっていないという。また、その子どもたちは学校に行くのが嫌いだったが、給食が始まったことで学校に行くようになったという。単に健康の問題だけではなく、友達と一緒にご飯が食べられるということで学校に行くようになったというプラスの面がある。
そのような話を色々なところで聞いたが、若干気になったことがある。ひとつは、やはり持続性の問題である。短期集中的に資本を投下するプロジェクトが終わった後にどうなるのかというのが素朴な疑問としてあった。村人はたとえば、品種改良したカカオをもらって、高い収量により増益することを考えていたり、水の利用量を村人からもらって運転資金にするなど、工夫はしているようである。ただし、まとまったお金が入らなくなるので、それをどうするのかが問題である。
もう一点は、首都であるアクラから案内してくれたNGOの人々は、ジャーナリストに、新しいクリニックや太陽熱電池や新しいコミュニティセンターなど、建物や物を見せたがることである。援助とは、その結果人がどうなったかということが重要だと思うが、どうしても物を中心に考える傾向にある。どんなプロジェクトでも人が中心にいなければならないが、その感覚を失うと、単に物をあげたりお金を出したりという、今までの失敗の繰り返しになるのではないかと考える。
②日本は何をすべきなのかという点について。人や知恵、資金が3本柱だと考える。日本は、90年代は資金がたくさんあったためにトップドナーでとして大盤振る舞いをしていたが、今では経済が振るわず、日本人の内向き志向もあり、お金が減ってきた。お金が減ってくるとこれまで人を育ててこなかったツケが回って、人を出すこともできない。企業も元気がなく、悪循環に入り込んでいる印象がある。
政治の問題、国民の問題など、それぞれ色々な問題があるが、一点だけフォーカスしたいのは、企業の役割である。日本が企業中心の社会である以上、企業がどう行動するかによって、大きなトレンドができていく。昨年の2月までの3年間、ジャカルタの特派員をしていたが、2004年末にツナミがあった。その時の支援の資金の額は、日本政府としては一番多かったが、市民からの寄付や企業からの寄付では日本は非常に低かった。日本のマスコミの反省点として、二国間の支援は日本がトップだが、市民のお金や企業のお金がどうだという話がなかなか記事にならないということがあげられる。日本はちゃんとやっているのではないかという印象を持ちがちだが、現場にいるとそういう感じがしない。人がいない、顔が見えない、物も日本から来たものかどうかよくわからないのである。
他国では、ソニーエリクソンの人がボランティア休暇で来て、携帯電話のアンテナを立てたり、イギリスのブリティッシュ・テレコムの人がパラボラアンテナを据え付けに来たり、空港のディスパッチャーが援助物資を分けるのを手伝うなどの活動を行っている。しかし、日本企業は、能力を持っている人を出すという経験があまりない。今の若い20代、30代の人はやりたくてうずうずしている人がいるだろう。そういう人たちを出せるような環境を整えることにより、すそのが広がって、世論も変わり、世論が変われば政治も変わっていく、という良い意味での循環が生まれるのではないかと思う。こうした点について、欧米の状況をサックス教授やンドゥール氏にお聞きしたい。
◆北岡
時間の関係から、既に皆様からいただいた質問と、今2人からいただいた質問を適宜取捨選択し、サックス教授とンドゥール氏にお返事いただきたい。最初に遠藤氏の方から開発とサステイナビリティの問題をどうやって両立させていくかという質問があったがいかがか。
◆サックス
 持続性に関する問題はミレニアム開発目標の2期目の5年間の話である。ミレニアム開発目標には、まず投資のための5年間があり、その間に、農業、保健衛生、教育、インフラの基本的な分野への投資を行う。その後の2期目の5年間に、地域社会と協力して以下の3種類の制度を作ることになっている。
①コミュニティガバナンス
これは2期目の5年間続くものであるが、いわゆる運営委員会が指導役となって、様々な技術分野における統治をしっかりするということである。
②マイクロファイナンス
コミュニティの中の金融機関が基本的な経済面での融資の機能をきちんと担えるようにすること。
③農民のための協同組合
組織全体となって農民を助けて、農業を推進としていくこと。それが重要な生計手段となる。もしコミュニティが生活水準を上げれば、売却に回す穀物ができ、長期的な持続的開発への収入創出につながる。
もちろん、蚊帳のようなものは保健衛生の一部と考えられるので、子どもに予防注射をするように、蚊帳も数年に一回人々が得られるようにしなければならない。蚊帳によって自分が感染しなければ、周囲の人をも守ることにつながるので、地域社会の全員が蚊帳を使う必要があり、蚊帳の配布は公衆衛生事業の一部になるべきだ。
ンドゥール氏の言った、残り949日間というのは、2010年末までにアフリカのすべてのマラリア感染地域に蚊帳を普及させるという約束の期限までの日数だ。これを達成するには今から2億5000万帳の蚊帳が製造、配布されることが必要だ。これは難しい目標だが、公的資金と民間資金を合わせれば、そして、アフリカにおいてきちんと配布し、人々を訓練し、利用方法を普及できれば、達成できると信じている。
◆北岡
2番目に、アフリカの経済のことをお聞きしたい。まずンドゥール氏への質問であるが、アフリカの経済は現在一見好調であるものの、かなりの程度、資源や農産物の値上がりに原因があり、かえって色々な国の格差の拡大しているのではないかという問題があるが現状はどうか。それからサックス教授は、アフリカの経済が一見好調に見えることについてどう思うか。それが通貨に影響を及ぼすようになると、資源依存型でいくとことがかえってアフリカの長期的発展を不可にするのではないか。
◆ンドゥール
アフリカの大きな問題であるが、経済問題について政府が使っている評価基準は、国民には知られていない。たとえば、6%から10%の経済成長があるといわれているが、国民の現実を反映しているものではなく、国民が実感しているわけではない。また、経営の問題もある。経済成長が2桁以上の場合、政府が国民にどのように発表するのか考えるべきである。
貧困についても考えるべきであり、啓蒙の活動は非常に重要である。2005年まではマラリアの話が頻繁に取り上げられ、アフリカ・ライブというコンサートをよくやった。30人のアーティストがダカールに集まって話をし、それを自分たちの国に帰って、自国の言葉で話すのである。それによってたとえばマラリアは危険なものだということがわかるようになってきている。よって、政策をとった場合には、国民に対する情報提供、啓蒙活動をすべきだと思う。
◆サックス
最近、アフリカの一部の国では年間5-6%という経済成長が見られる。これは極度の貧困の中で始まった成長であるため、地方の人々はたった2-3年経済が成長したからといって、改善を実感しているわけではない。経済成長が示すのは潜在性であり、極度の貧困にある経済を浮揚させるには、成長が数十年続き、継続的な経済発展が存在することが求められるのである。したがって、状況は依然として脆弱だ。アンゴラやガボン、ナイジェリアのような石油輸出国と、非石油輸出国の間の格差は広がっている。また、ナイジェリアのような産油国でさえ、収益は国民一人当たりに換算すると、さほど大きくはなく、貧困レベルは変わってない。発展の潜在性はあるが、実現するには何年もかかるということだ。
農業、衛生、教育の分野での課題は、国際的にも、村の中でも、次第に広く理解されるようになった。時には解決に必要な資金がないこともあり、そこが援助の入るべきところである。何をするのか知ることと、それを実行する資力があるかどうかということ。ミレニアム・ビレッジ・プロジェクトは、財政支援が知識と合わさって初めて可能になる。そうすれば、たとえば3-4年で食糧生産を大きく改善することができると考える。農家は、品種改良された種子と肥料を得られれば何をすればいいのかを知っているが、マイクロファイナンスやドナーからの貸付を通じた支援を必要としている。知識と支援の両方が必要なのである。
◆北岡
 次に、我々に何ができるのかということをお聞きしたい。日本企業はどう参加すべきなのか。日本の援助は、政府は一定レベルにあっても、非政府の部分はあまり多くない。
◆サックス
 企業は「我々は、どんな有用な技術を持っているだろう」と自問できる。住友化学は蚊帳、トヨタは輸送、ソニーは携帯やコンピュータ、シャープはソーラーパネルなど、多くの企業が非常に有用な技術を有している。もし、こうした企業がミレニアム・ビレッジ・プロジェクトに参加すれば、変化をもたらすために、彼らの技術を現実の世界でいかに活用できるか示すことができる。企業と政府は、官民のパートナーシップを組む手法を協議する必要がある。それによって、企業側は技術を低コストで提供し、政府の援助がその技術の普及を促進することができる。
大学は衛生、インフラ、農業、経済の専門家をミレニアム・ビレッジ・プロジェクトに派遣し、事業から学ぶほか、モデル推進の方法を提案したりすることができる。コロンビア大学では他の大学や研究所とのパートナーを探している。日本政府がミレニアム・ビレッジ・プロジェクトを推進しているのだから、大学にも大きな役割はあると思う。
 最後に、個人は、ミレニアム・ビレッジ・プロジェクトと連携して、資金的な貢献をしたり、事業内容を学んだり、啓発活動に携わることができる。ミレニアム・プロミス・ジャパンが啓蒙活動に役立つことにより、個人レベルの参加が可能になる。たとえば学生がインターンをしたり、寄付をしたり、インターネットで日本の学校とアフリカの学校をつなげば、子どもたちが互いから学ぶこともできる。
◆北岡
マラリアを媒介する蚊は夜中の11時から朝の5時まで活動し、この時間に蚊に刺されることがなければほとんどの場合マラリアを回避できることを補足する。また、日本政府と企業のパートナーシップの一つの例として、ボツワナ大使に三井物産の松山氏が任命され、日本政府も方向性を変えつつあることをご紹介したい。
日本政治外交史がもともとの専門である私が、個人的にもこのプロジェクトにコミットしている大きな理由は、日本の経済発展の中で起こった様々な知恵がこのプロジェクトに散りばめられているということである。今日はサックス教授に日本の貢献を褒めていただいたが、日本はそれに値する貢献をしているのか、と思う。
アイデアの面では、日本が自力で発展していく過程、東アジアに提供してきた過程に、色々な知恵が詰まっているのは確かである。ミレニアム・ビレッジ・プロジェクトは、日本が国連に出しているヒューマン・セキュリティ・ファンドを使って始められた。そういう意味では日本もきっかけを作ったといえる。これに対する日本のコミットは続けて、拡大してほしいと思い、福田総理をはじめいろいろな方にお願いしている。
更に付け加えれば、もっと単純なことで、みなさんにアフリカを知ってほしい、アフリカに行って欲しいと考えている。行くと、我々がいかに恵まれた環境にいるか、我々はグローバルな市民として何をしなくてはいけないか、ただ今の日常をエンジョイしているだけではだめなのだということをきっと痛感されると思う。
4.閉会の言葉   武内 和彦 (東京大学国際連携本部長)
本日のシンポジウムは前国連大使の北岡教授の発案によるものである。小宮山総長が冒頭の挨拶でお話ししたように、東京大学はアフリカの貧困撲滅に資する研究教育が十分でなかったため、多くの学生のご参加をいただけるのか心配していたが、実際には予定の定数の倍を超える応募があり、たくさんの方に参加していただいた。東京大学がアフリカにおける貧困撲滅という世界的に大きな課題に対して本格的に取り組んでいく良い契機になったのではないかと喜んでいる。サックス教授とユッスー・ンドール氏に心より感謝申し上げたい。2人のアフリカでの貧困撲滅にかける飽くなき情熱には心より敬服する。本日、皆さんに直接お話を聞いていただくことができ、大変有意義だったと思う。
東京大学は4年前の国立大学法人化以来、世界の知の頂点を目指し、精力的に国際化を進めている。ここでいう国際化とは単に欧米社会との連携強化にとどまるものではない。開発途上国を含めた多様な社会に存在する多元的な学術・社会との連携を広げていきたいと考えている。東京大学はこれまで、アジア、中国、東南アジア、インドに焦点を当てて研究活動の強化を図ってきたが、今後は世界の英知が最も注目するアフリカ社会との連携を視野に入れて、国際化を推進していきたいと考えている。東京大学には人間の安全保障、国際保健学、農業生産といった分野で積極的にアフリカと関わっている教員や学生も多数いる。今後はそういった個々の教員、学生の活動を全学的な視点から体系化し、貧困撲滅を目指すネットワーク型の組織を立ち上げたいと考えており、その準備を始めている。当シンポジウムを契機として、アフリカの貧困撲滅に資する研究教育活動を本学としても発展させていただきたいと思う。皆さんの多大なご支援をお願いする。