ミレニアム・プロミス・ジャパン(MPJ)

極度の貧困は根絶できるはずだ
私たちの孫の時代ではなく、
私たちの世代のうちに
極度の貧困は根絶できるはずだ  私たちの孫の時代ではなく、私たちの世代のうちに

人間の安全保障とミレニアム・ビレッジ・プロジェクトの概念的つながり

ミレニアムビレッジ.jpgミレニアム・ビレッジ・プロジェクトは、コロンビア大学地球研究所、国連開発計画(UNDP)、ミレニアム・プロミスのパートナーシップで運営されています。
UNDP側のプロジェクト・アドバイザーであるパトリック・ハバーマン(Patrick Haverman)さんから、UNDPアフリカ局でインターンをしている田宮彩子さんが執筆した「『人間の安全保障』とミレニアム・ビレッジ・プロジェクトの概念的つながり及び日本の果たす役割」をご紹介いただきました。
タイトルが示すように、日本が提唱した「人間の安全保障」とミレニアム・ビレッジ・プロジェクトのコンセプトは深くつながっています。10月末に来日なさったサックス教授も、ミレニアム・ビレッジ・プロジェクトは日本発の開発モデルに沿ったものであるとご指摘なさっていました。
田宮さんの論文を「続き」に掲載しましたので、ぜひご一読ください。


「人間の安全保障」とミレニアム・ビレッジ・プロジェクトの概念的つながり
及び日本の果たす役割

                   
「人間の安全保障」の概念は、国連開発計画の1994年版人間開発報告書の中で最初に取り上げられた。その後、2000年の国連ミレニアム・サミットにおける日本政府の発案に基づき、2001年1月、「人間の安全保障委員会」が設立された。上記国連ミレニアム・サミットは、教育、保健医療、両性の平等、環境等の改善をしながら、2015年までに貧困・飢餓を半減するなどの世界的目標である「ミレニアム開発目標」がまとめれるきっかけとなった場でもある。「人間の安全保障委員会」は、「人間の安全保障」を「人間の生にとってかけがえのない中枢部分を守り、すべての人の自由と可能性を実現すること」と定義している。「人間の安全保障」とは、人が生きていく上でなくてはならない基本的自由を擁護することである。言い換えれば、人々を深刻かつ広範な脅威と状況から守り、人々が本来備わっている強さと希望に拠って立ち、生存・生活・尊厳を享受するために必要な基本的手段を手にすることができるよう、政治、社会、環境、経済、軍事、文化といった制度を一体として生み出すことを意味する(「安全保障の今日的課題:人間の安全保障委員会報告書」2003年)。
 他方、国連ミレニアム・サミットから5年後、「開発に投資する:『ミレニアム開発目標』達成のための実践的行動計画」(2005年)と題する報告書にまとめられたさまざまな研究提言を基礎に、ミレニアム・ビレッジ・プロジェクトが生まれた。ミレニアム・ビレッジ・プロジェクトは、現在、コロンビア大学地球研究所、ミレニアム・プロミス(NPO)、国連開発計画の三者の協力の下に運営されている。同プロジェクトは、アフリカの農村地域が自ら極度の貧困状態から抜け出すために、5年間を基本とした明確かつ革新的な開発モデルを提案している。そして、同プロジェクトの対象となったミレニアム・ビレッジは、地域に根ざした統合的な開発を通して村単位で貧困問題と闘うことにより、それら農村が「ミレニアム開発目標」達成の一翼を担いうることを証明している。現時点において、同プロジェクトの対象はサハラ砂漠以南のアフリカ10か国(エチオピア、ガーナ、ケニア、マラウィ、マリ、ナイジェリア、ルワンダ、セネガル、タンザニア、ウガンダ)の80農村、40万人の人々に及び、注目すべきまた相乗的な成果をあげている。例えば、食料の生産に関しては、ミレニアム・ビレッジの生産量は近隣農村の2倍以上に達している。マラウィのムワンダマ村における2008年のとうもろこしの平均収穫量は、プロジェクトに基づいて肥料と改良された種子を用いた農地においては、その他の2.7倍に達した。タンザニアのムボラ村においては、プロジェクトが介入した農地においては、介入していない農地に比べ収穫量が5倍以上に達した。収穫量の増加の相乗効果としては、余剰食糧を活用した学校給食プログラムの大規模な拡大が挙げられよう。さらにそれは、子供の就学率と生徒の学校への定着率、学習能力の向上につながり得る大きな鍵である。保健分野に関しては、プロジェクト開始当初、わずか35~45%の女性が妊産婦検診‐しかも大抵最初の検診は妊娠後期の第3期目‐を受けていたにすぎないが、現在は保健設備の改善により、85%の女性が遅くとも妊娠第2期目から妊産婦検診を受けている。また、JM Eagle社との提携により、本プロジェクトは、多くのミレニアム・ビレッジにパイプで水を供給している。2008年、セネガルのポトウ村においては108キロに及ぶパイプが埋設され、地域と主要な公共施設の99%以上に清潔な飲み水を提供している(「ミレニアム・ビレッジ・プロジェクト年間報告書」2008年)。これは、村民の健康状態を改善するだけでなく、これまで水汲みに多くの時間を割いてきた女性にとって、地位向上の端緒となり得る重大な意味ある変化をもたらした。
ミレニアム・ビレッジ・プロジェクトは、「人間の安全保障」の概念と一致するだけでなく、そのアプローチ方法においても「人間の安全保障」と一致する。「人間の安全保障」の課題の一つは、暴力を伴う紛争からの人々の保護であり、それらは一般にメディアに取り上げられやすいハイ・インパクトな恐怖からの身体的自由である。一方で、食料、教育、保健医療、人権、良好な統治の欠如等がもたらす極度の困窮状態の解消も課題の一つであるが、それらは現在、一般にメディアに乗りにくい、つまり目に見えにくいロー・インパクトの慢性的貧困/慢性的欠乏からの自由と言えるであろう。すなわち、「人間の安全保障」はそういった「恐怖からの自由」、「欠乏からの自由」を対象とする包括的な概念である。ミレニアム・ビレッジ・プロジェクトは、政情が安定した非紛争国の農村を最初の対象としており、それらの国々における同プロジェクトは、特にサハラ砂漠以南で緊急の課題となっている「欠乏からの自由」に焦点を置いている。アプローチ方法に関しては、「人間の安全保障」は多種多様な不安定要因に対処するため統合された包括的取り組みを必要としており、この点「人間の安全保障委員会」は、人々の「保護」と「能力強化」を基礎とした枠組みを提案している。「保護」は、人々を深刻かつ広範な脅威から守るための規範、手続、制度等を意味する。それは言ってみれば「トップダウン」方式であり、そのような保護システムの構築には、国家が第一次的責任を持つ。他方、「能力強化」は「ボトムアップ」方式である。それは、個人および地域社会が情報に基づいて自ら選択し、自らの利益のために自ら行動するための能力の向上を目指す。さらに、「人間の安全保障」の実現には、多分野にわたる取り組み及び中央政府、地方政府、国際機関、NGOなどの多様な関係当事者間の協力が求められる。この点、ミレニアム・ビレッジ・プロジェクトもまた「ボトムアップ」方式であり、なおかつ多分野にわたる統合されたアプローチ方法を採用している。同プロジェクトの特筆すべき点は、地域スタッフが村民や地方政府、時には中央政府と共に(地域参加型)、地域に根ざした持続的な行動計画を作成し、実行していることである。その行動計画は、農業、保健医療、教育、インフラの大きく4分野に優先順位を置きながら、また新しい科学技術を取り入れながら、村ごとの具体的なニーズに合わせてミレニアム開発目標の達成に向けて作成される。現在、ミレニアム・ビレッジは、異なる農業・生態系の地域に所在しており、それぞれの土地においては直面している農業、保健医療、教育についての課題が異なる。これら異なる地域における成功は、各ミレニアム・ビレッジ・プロジェクトの教訓を生かしながら、地域に根ざした戦略を用いることで、異なる地域状況においても「ミレニアム開発目標」達成の一翼を担いうる可能性があることを示している。
ミレニアム・ビレッジの概念は、現在モザンビーク(日本の地域社会能力強化基金が支援)、リベリア(ノルウェイが支援)、マダガスカル(韓国が支援)に広がり、それら地域においてはミレニアム・ビレッジ・プロジェクトの初期段階にある。さらに重要なことに、いくつかの国においては、同プロジェクトがめざましい成果を遂げ、政府がその教訓を国家の「ミレニアム開発目標」スケールアップ計画に取り込もうとしている。マリ(www.initiative166.org参照)、ナイジェリアがその例であり、セネガル政府もまた同国の北部にプロジェクトを拡大することを検討している。
日本政府は、これまで8か国(マリ、セネガル、ガーナ、ナイジェリア、タンザニア、ウガンダ、ケニア、マラウィ)におけるミレニアム・ビレッジ・プロジェクト1(MV1)に、「人間の安全保障基金」(UNTFHS)を通じて資金援助をしてきた。そして、2008年の第4回アフリカ開発会議(TICAD IV)において、ミレニアム・ビレッジ・プロジェクトを開始する新たな4か国(モザンビーク、ベナン、カメルーン、マダガスカル)への支援を約束した。モザンビークにおけるプロジェクトは最近日本政府内で承認され、ベナンとカメルーンにおけるプロジェクトも年内に承認される見込みである。
これまで述べてきたように、「人間の安全保障」とミレニアム・ビレッジ・プロジェクトの間には多くの共通基盤がある。ミレニアム・ビレッジ・プロジェクトは、サハラ砂漠以南に「人間の安全保障」概念を広めながら、「ミレニアム開発目標」を達成するための様々な取り組みにより「欠乏からの自由」を実現している。ミレニアム・ビレッジの成功のためには、資金援助各国による支援と監視が不可欠である。特に、ミレニアム・ビレッジへの最初の援助国であり、同時に「人間の安全保障委員会」設立の提唱国でもある日本のリーダーシップは、「人間の安全保障」概念の普及促進のためだけでなく、国際社会における日本の存在意義をさらに強固なものとするためにも重要である。

国連開発計画(UNDP)アフリカ局インターン
政策研究大学院大学修士課程 国際開発プログラム
田 宮 彩 子

参考文献
・「安全保障の今日的課題:人間の安全保障委員会報告書」2003年
・「ミレニアム・ビレッジ・プロジェクト年間報告書」2008年